奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


産院からの帰り道、奈美が色々話しかけてくれた。

「私、お節介だから呆れたでしょ、梨音ちゃん」
「そんなことありません! 奈美さんが声掛けてくれたから妊娠に気が付いたんですよ」

自分ひとりではこんなにスムーズに行動できなかった。

「私も色々と経験があるんだ。これでも最初は大変だったんだよ」
「最初って?」

梨音が聞き返すと、奈美は数年前のことを話してくれた。

「昴がお腹に出来た時」

ポツリポツリと奈美が話すのは、夫の敏弘との馴れ初めだった。

「高校の頃、バイト先のカフェで敏弘さんと知り合ったの」
「そうなんですか!」

始めて聞く話に、梨音も興味深々だ。

「それで付き合い始めたんだけど、私が専門学校に行ってた頃に昴を妊娠したんだ」
「それで結婚されたんですよね」
「ううん。すぐ彼はプロポーズしてくれたけどうちの親には猛反対されちゃて」
「え⁉」

奈美と敏弘の結婚までの道のりは、なかなか厳しかったようだ。

「だから私、家を出ちゃったんだ」

「ええっ!家出? 駆け落ち?」
「声が大きいよ、梨音ちゃん」
「スミマセン」

あまりにもドラマチックな展開に、梨音も続きが気になって仕方がない。

「大きなお腹で茅ヶ崎のお祖母ちゃんちに逃げてたのよ」
「茅ヶ崎……湘南の方ですね。そこで、昴君を産んだんですか?」
「ううん。出産の時はお義母さんが面倒を見てくれたから、さっきの病院で産んだんだ」


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