奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「あの人の車です。どうしてここに? どうしよう、私、隠れなくちゃ」
梨音は気が動転してしまって、上手く奈美に伝えられない。
「落ち着いて、ゆっくり話して」
奈美が背中をさすってくれたので、梨音は少しずつ落ち着きを取り戻した。
「あ、あの車は、彼が仕事で使ってる車です」
「ひえっ! あんな高級車?」
「私、会いたくない……」
「もしかして、梨音ちゃんを探してるのかな?」
奈美は簡単に言うが、ありえないことだ。奏が自分を探すはずはない。
「まさか! 二度と顔を見せるなって言われたのに」
「彼、梨音ちゃんが妊娠してるのを知らないよね」
梨音は真っ青な顔色のまま頷いた。
「知られたくない。この子を取られたくない」
「わかった。梨音ちゃんの元カレがこの辺りにいるとしたら大変だ。私が様子見てくるから、商店街から離れなよ」
「奈美さん……」
どこへ行こうかと思案する梨音に、奈美は小さな鍵を渡してくれた。
「これ、うちのアパートの鍵。なにかわかったら迎えに行くから隠れてて」
「ありがとうございます。助かります」