奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


ところが、出場するのが当たり前だと思っていた彼女の名前が名簿になかった。
焦った敦子は、なにかの手違いではと会場を探したが彼女の姿も見えない。

「去年『エリーゼのために』を弾いていた春名さん、今年はどうなさったの?」

間野敦子は後輩の水戸に探りを入れたら、とんでもない答えが返ってきた。

「あ、梨音ちゃんですか?今年からは不参加なんです」

あっさりと、水戸は言う。

「ピアノ辞めちゃったの?」

敦子が重ねて聞くと、水戸の口は重かった。

「いえ、お家の方で色々あったらしく、大変そうなのでコンクールは無理なんです」
「まあ!」

敦子は絶句した。こんなことになるなら去年のうちに手を打っておけばよかったと後悔した。

「でも、ピアノ教室は続けていますよ」

水戸の言葉は、敦子にはなんの気休めにもならなかった。



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