奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
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守屋を待たせていた車に戻った奏は、難しい顔を崩さなかった。
後部座席に座り込んでからも、行き先を告げずに黙り込んでいる。
「副社長、会社に戻られますか?」
守屋が声をかけたが、奏はまだ無言だ。
奏は冷静に『日暮亭』での会話を思い出そうとしていた。
若いふたりは夫婦のようったが、女性は饒舌すぎるほどしゃべり、男性はなにも言えずに口ごもっていた。
「おかしい」
「は? なにがでしょうか」
「店にいた若夫婦の態度があまりにもちぐはぐだ」
そう言って守屋の方を見たが、珍しく戸惑った顔を見せている。
秘書の立場にしてみれば、おかしいのは今日の奏の方だろう。
いきなり予定を変更したり、商店街の近くで待たせたりと勝手に行動しているのだ。
奏は守屋の誠実さを見込んで、梨音を探す手伝いを頼むことにした。