奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「守屋、誰か人をやって洋食屋を暫く見張ってくれ」
「見張るといますと?」
「もしかしたら、梨音のことを知っているかもしれない」
守屋は奏の言葉に少し眉をひそめたが、余計なことは言わなかった。
奏からは詳しいことを伝えていないが、梨音と別れたのは察しているだろう。
守屋は秘書とはいえ、急にロサンゼルスに出向いたり帰国してからもハードなスケジュールをこなしたりしている奏に文句ひとつ言わずに寄り添ってくれる貴重な人材だ。
マンションではなくホテルに泊まりこんでいるというのに、プライベートについてはなにも詮索してこない。
それが奏にはありがたかった。
「なにかわかれば、すぐにご報告します」
「頼む」
奏の口から『頼む』という言葉を聞いた守屋は、ことの重大さを改めて感じていた。
最初は恋人と喧嘩でもしたのかと思っていたが、かなり深刻な状態のようだ。
義弟の居場所を探したかと思うと、今度はいきなり視察予定を変更して洋食屋に出向く。
『梨音』という人は、仕事では冷静沈着な副社長をこれほどまでに翻弄してしまうのだ。
守屋は梨音がそばにいないと、奏は壊れていくような気がしてならなかった。