奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
梨音のことだけで頭が一杯なのに、これ以上は無駄な労力を使いたくない。
「このところ、あれこれ余計なことまで頼んですまない」
奏が守屋に話しかける。
年も近いし、もう数年来の付き合いだがプライベートに踏み込んだ話をするのは初めてだ。
「副社長、どうなさいました?」
守屋は怪訝な表情だが、構わずに奏はゆっくり話し始める。
「俺が入社した時から、君には世話になっている」
「はい、大学が同じというだけで、副社長に声を掛けていただきましたから」
少し嬉しそうに守屋が答えた。
「これまで自分が考え、信じてきたことが間違っていたとしたら君はどうする?」
「は?」
「正しいと思っていた方向が、実は真逆だったとしたら……」
守屋は奏の言葉が理解できず、困惑した表情だ。
「俺は生まれた時から間野家の息子で、否が応でもこの会社で働かざるを得ないと思っていた」
「そうですね。それはどうしようもないかと思います」
守屋もそれは理解できたのか頷いている。生まれた時から決められていることには逆らえない。
「俺もそう思っていた。だからなんの支えもなかった梨音の力になろうとしたんだ。俺が持っているものはなんでも使って」
「梨音さんは、それだけの価値のある方ですから」
「自分才能と努力だけで生き抜いていかなくちゃならない梨音を支えるのが、俺の役目だと思い込んでいたんだ」
奏はこれまで隠してきた気持ちを整理しながら話し続けていた。
「副社長」