奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「それでか……」
章子が低い声で呟いた。
「お義母さん、それでって?」
奈美が尋ねると、章子は重苦しい表情で話し始めた。
「その人、結婚が決まったから前の恋人の梨音ちゃんが邪魔になったんじゃないかい?」
「あっ、そうかもしれない。口止めするのに探してたのか」
姑と嫁の意見が、珍しく一致したようだ。
「いや、考え過ぎじゃないかなあ」
敏弘が口を挟もうとしたが、ふたりは完全に無視している。
「出産まで静かに過ごさせてやりたいね」
「梨音ちゃんは私達が匿ってあげなくちゃ」
「いや、だから、副社長と話し合った方がいいと思うんだけど」
モゴモゴと敏弘は話しかけるが、ふたりには通じない。
「諦めな、敏弘くん」
国広と坂上が慰めてくれるが、敏弘はどうしても納得できない。
がっくりと肩を落とした奏の後ろ姿が忘れられないのだ。
「そうだ、お義母さん! 私の時みたいに湘南のお祖母ちゃんちで梨音ちゃんを預かってもらおうよ!」
「そりゃあ良い考えだ。お祖母さんさえ受け入れてくれるならお願いしたいねえ」
「私、すぐに聞いてみますね」
敏弘の意見は通らないまま、梨音の避難場所が決められた。