奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
夜になって店が終わってから、梨音は章子に呼ばれた。
二階の自室から店に顔を見せたら、奈美が雑誌を手渡してきた。
「これは……」
敦子のインタビュー記事を読むと、奏の結婚が決まったと書かれている。
梨音はなにも言わずに雑誌を奈美に返す。
「いきなりゴメンね、梨音ちゃん。黙っているよりも雑誌の記事を読んだ上でこれからのことを決めた方がいいと思って」
奈美はいくつか今後のことを提案してくれる。
このまま奏から隠れて生きるか、あるいは思いきって奏と会うか。
もしくは、茅ヶ崎にある奈美の祖母の家に避難するか。
「こんな記事を見た後で考えろっていうのは辛いだろけど、現実を知らなくちゃ決められないと思うんだ」
奈美も章子も温かい表情で梨音を見守ってくれている。
「あたしも、奈美たちも、梨音ちゃんの味方だからね」
「章子さん、奈美さん」
奏の婚約の記事はショックだった。
梨音は心のどこかで『もしかしたら、いつか奏さんとやり直せるかもしれない』と思っていたのだ。
完全に、梨音の夢は消えた。