奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
(奏さんは地位も名誉もお金もある人だ。私とは住む世界が違い過ぎたんだ)
幼い頃から一緒に過ごしてこられただけでも、自分にとっては幸せなことだったんだと思い知る。
「梨音ちゃんのしたいようにすればいい。私たちはどの道を選んでも応援するよ」
心細さに震えそうな梨音には、章子の言葉が身に染みた。
「章子さん、ひと晩だけ考えさせてください」
「それがいいね、焦らずゆっくりね」
章子は裏手の自宅に、奈美はアパートに帰るという。
梨音は店の裏口で、奈美を見送ろうとした。
「お祖母ちゃんは60くらいなんだけど元気いっぱいだよ。昔、地元の中学で音楽の先生してたんだ」
「音楽……」
わずかな街灯が照らす中で、奈美は祖母のことを話してくれる。
明るくて優しい人だし、梨音を喜んで受け入れてくれるという。
「私も昴を産む時にすいぶん助けてもらったの。きっと梨音ちゃんの力になってくれると思うよ」
「ありがとう、奈美さん」
奈美はポンポンと梨音の肩を励ますようにやさしく叩く。
「ゆっくり、梨音ちゃんの納得する答えを見つけてね」
ふたりはぎゅっと抱き合った。
離れた場所から店の様子を伺うようにしていた男がいた。
その男が、ふたりが寄り添う姿を撮影していたことに奈美も梨音も気付かなかった。