奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


***


「副社長、よろしいでしょうか?」

軽いノックの音と共に、守屋が声を掛けてきた。
声の調子からして、いつも冷静な彼がどこか不安げだ。

パソコン画面から顔を上げて奏が入室を促すと、数枚の写真を持った守屋が足早にデスクに近付いてくる。

「昨夜、調査員が撮影した写真の一部です。彼からは『梨音さんではない』と判断したと報告が入ったのですが、念のためご確認ください」

守屋から受け取った写真を見た奏は絶句した。

「これは……」

暗がりの撮影で画像ははっきりしないが、アップを見る限り、顔立ちは梨音と先日『日暮亭』にいた女性だ。
だが遠景でのシルエットを見ると、何かが違う。

「こちらの女性は、妊娠していると思われます」

梨音らしい女性は、ゆったりした服を着てお腹のあたりが膨らんでいる。

「私の姉が妊娠していた頃の記憶では妊娠六か月くらいかと思うのですが」

(梨音が妊娠している? 家を出る時にお腹に子供がいたのか?)

奏は混乱していたが、『日暮亭』に梨音がいることは間違いないと確信した。

「車を準備してくれ。少し出てくる」

すぐに会って確かめようと立ち上がる。

「わかりました。あとのことはお任せください」

守屋はデスクの上に残した仕事のことには触れず、快く奏を送り出してくれた。




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