奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
その頃『日暮亭』では、梨音が奈美の祖母のところへ行くことを決めていた。
このところ少し動くと動悸がするし、息苦しいことがよくある。
産婦人科を受診しても、あまりよくない状態だと言われていた。
(このまま『日暮亭』にいたらダメだ)
奏のことを忘れるためにも、静かに暮らして出産したい。
『今は元気な赤ちゃんを産むことだけを考えます』
そう章子に告げると、すぐに出かけようということになった。
「お祖母ちゃんちまで送っていくから安心してね」
大きな荷物や奈美からもらったマタニティー用品などは後から送るように手配して、身の回りの物だけ持って『日暮亭』を出る。
商店街の入り口までふたり並んで歩くのだが、ポコッとしたお腹のせいで梨音の動作もゆっくりになってきた。
「妊婦さんらしくなったねえ~」
梨音はこれまでお腹があまり目立たなかったのだが、やっと妊婦らしく見え始めたところだ。
「やだ、奈美さん。もう七か月だもの」
「わりとお腹が小さいかな? 初産だしね」
「そうなの?」
妊婦と経産婦らしいおしゃべりをしていたら、いきなり梨音は腕を掴まれた。
「梨音!」