奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「奏さん」
驚いて振り向くと、息を切らした奏が梨音の腕を掴んでいた。
走ってきたのか、奏は肩で大きな息をしていて額から汗を流している。
「梨音、探したんだ」
それ以上はなにも言わずにじっと梨音の姿を見つめている。
梨音は驚きのあまり言葉が出ず、ガタガタと震え始めた。
ただ事ではないと感じた奈美が、横から梨音の身体を支えた。
「お腹の子は、俺の子か?」
梨音は、奏のひと言で抑えていた感情が爆発した。
「酷い……」
「あんた、自分がなに言ってるのかわかってんの?」
奈美はケンカ腰になった。
梨音の腕を掴んでいた奏の大きな手を叩いて払いのけようとする。
(どうしても信じてくれないんだ)
梨音は一度唇をキュッと噛んだ。
それから「触らないで!」と叫びながら、力いっぱい奏の手を振り払った。
「梨音!」
「お望み通り、二度とあなたとは会いません!」
梨音はその場から離れようと奈美の手を取った。なによりも奏の言葉が辛くて情けなかった。
「奈美さん、行きましょう」
「りおちゃん、顔色が悪いけど、大丈夫?」
「ここにいたくないの」
ふたりは手を取りあったまま、奏から離れようとする。
「梨音、違うんだ! すまなかった、話をさせてくれ!」
奏が追いかけてくるが、梨音はもう振り向くつもりはなかった。
「梨音!」
奏がもう一度梨音の手を取ろうとした時、急に梨音は目の前が真っ暗になった。
まっすぐ立っていられない。
「梨音ちゃん!」
そばにいるはずの奈美の声が、ずいぶん遠くから聞こえてくる気がして息苦しい。
「奈美さん、胸が……苦しい……」
なんとか告げたところで、梨音の意識は飛んだ。