奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
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奏は自分の車で梨音を救急病院に運び込んだ。
奈美にも付き添ってもらったが、ぐったりした梨音の顔色の悪さが心配だった。
このまま梨音を失うかもしれない恐怖も生まれて初めて味わった。
(せっかく会えたのに、俺はなんであんなことを)
妊娠している梨音の姿を見たとたん、考えていた言葉がなにひとつ出てこなかったのだ。
「間野さん、さっきのセリフはあんまりだと思います」
梨音はまだ検査が続いていて、奏は奈美と病院の廊下で待っていた。
奏はイライラと廊下を歩いたり立ち止まったりしているし、奈美は廊下に置いてある椅子に座り込んで動けない。
「会ったとたん『俺の子か』だなんて、女性をバカにしてるし! 梨音ちゃんを疑ってるし! 絶対に言っちゃいけない言葉です」
奈美の怒りは奏の心に突き刺さった。
「わかってる。半年ぶりに会った彼女の妊娠してる姿に、気が動転してしまったんだ。我ながらどうかしていた」
「ホントに? ちゃんとわかっているんですか?」
奏は眉間に縦皺を寄せたまま、苦しそうに奈美に話す。
「すまない。反省はしているが、今は梨音が無事でいてくれることだけを考えたいんだ」
「あ、そうですね。ごめんなさい言い過ぎました」
それからは無言でふたりは椅子に座って梨音の診察が終わるのを待ち続けた。
ほどなくして、梨音はストレッチャーに寝かされたまま看護師たちに付き添われて診察室から出てきた。
「入院になりましたので、病室へご案内します」
症状からすぐに入院が決まったらしく、梨音は白っぽい顔色で目は閉じたまま点滴を受けている。