奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「梨音ちゃん」
あまりの痛々しさに奈美は泣きそうな顔をしているが、呼びかけても梨音に反応はない。
「先生からお話があります。春名さんのご家族の方ですか?」
診察室の中から看護師が声をかけてきた。
「私が、子供の父親です」
「では、どうぞ」
奏は部屋に入り、奈美は梨音が運ばれるのに付き添って病室に向かった。
診察を終えた医師は、奏が椅子に座るとデータが見えるようにパソコン画面を向けてくれた。
検査結果を丁寧に話してくれるのだが、奏に告げられた梨音の病状は想像以上に重かった。
「周産期心筋症と思われます」
「心臓の病気ですか? これまで心臓に病気は無かったはずです」
「まれに、既往の無い方でも妊娠がきっかけで発症します」
風邪ひとつ引かないし、いつも元気にしていた梨音からは想像もできない。
「重症化したら母体の命に関わりますから、出産まで入院したほうがいいでしょう」
「そんなに重症なんですか?」
奏の声は掠れていた。
「無事にお子さんが生まれるように、最善を尽くします」
「よろしくお願いします。彼女と子どもを助けてください」
祈るような気持で医師に頭を下げたが、返事はなかった。