奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
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眠り続ける梨音を、奏はやり切れない気持ちで見つめていた。
やっと見つけた梨音は、お腹に自分の子供を宿していた。しかも、命に関わる病状だ。
「すまなかった」
そばに奈美がいるにもかかわらず、奏は目を閉じたままの梨音に詫び続けた。
「許してくれなくていい、でも、君のそばにいさせてくれ」
どれだけ謝罪の言葉を言い続けても、許されないだろう。
「あの、間野さん」
「君はたしか……」
「小暮奈美といいます。梨音ちゃんが働いてくれている『日暮亭』の嫁です」
「今日は色々助けてくれてありがとう」
奏が頭を下げると、奈美は慌てていた。
「とんでもない。こちらこそ、梨音ちゃんのお陰でお店が助かっているんです」
「そうでしたか」
奈美は梨音がどんなに心根の優しい子で、町内会でも愛されているかを話してくれた。
「梨音ちゃんが元気になったら、キチンと話しをしてください」
自分の知らない梨音の一面を知っている奈美が、奏はたまらなく羨ましかった。
「ありがとう、梨音のこと大切に思ってくれて。必ず話すと約束するよ。俺にはもったいない人なんだ」
奏の切ない視線に居たたまれなくなったのか、奈美は家に帰ることを告げる。
「今日はこれで失礼します。また、お見舞いにきますから」
「ありがとう」