奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~



***



眠り続ける梨音を、奏はやり切れない気持ちで見つめていた。
やっと見つけた梨音は、お腹に自分の子供を宿していた。しかも、命に関わる病状だ。

「すまなかった」

そばに奈美がいるにもかかわらず、奏は目を閉じたままの梨音に詫び続けた。

「許してくれなくていい、でも、君のそばにいさせてくれ」

どれだけ謝罪の言葉を言い続けても、許されないだろう。

「あの、間野さん」

「君はたしか……」

「小暮奈美といいます。梨音ちゃんが働いてくれている『日暮亭』の嫁です」
「今日は色々助けてくれてありがとう」

奏が頭を下げると、奈美は慌てていた。

「とんでもない。こちらこそ、梨音ちゃんのお陰でお店が助かっているんです」
「そうでしたか」

奈美は梨音がどんなに心根の優しい子で、町内会でも愛されているかを話してくれた。

「梨音ちゃんが元気になったら、キチンと話しをしてください」

自分の知らない梨音の一面を知っている奈美が、奏はたまらなく羨ましかった。

「ありがとう、梨音のこと大切に思ってくれて。必ず話すと約束するよ。俺にはもったいない人なんだ」

奏の切ない視線に居たたまれなくなったのか、奈美は家に帰ることを告げる。

「今日はこれで失礼します。また、お見舞いにきますから」
「ありがとう」




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