凄腕パイロットの極上愛で懐妊いたしました~臆病な彼女を溶かす溺愛初夜~
 古民家を改装したというお店は異質な雰囲気が漂っている。

 駐車場に大きめの看板があるのでここが居酒屋なのだとわかるが、それがなければこの建物はなんだろうと首を傾げるかもしれない。

 扉を開けて中に入ると懐かしさや風情ある空間に包まれて、まだ着席すらしていないのに非日常を楽しめた。

 朱莉ちゃんのご両親センスがいいなあ。

 椎名さんも物珍しいようで、私たち以外に客がいない店内をぐるりと見回していた。

「いらっしゃいませ」

 朱莉ちゃんの母親である女将がカウンターの向こうで優しく微笑む。白と薄紫の色合いの着物がとても似合っていた。

 小さめな作りの四人掛けテーブル席に座ると、アルバイトの女性がやって来て冷えた水が入ったグラスを置く。女性にアイスコーヒーふたつと甘味を注文して、ふう、と気持ちをくつろがせた。

「メニューが豊富なんだな」

「ほんの一部しか食べていないですけど、どれもおしいかったですよ」

「そうか。今度は食事をしに来たいな」

「ぜひ」と笑いかけると、椎名さんにジッと見つめられて身体が金縛りのように痺れた。

「一緒にって意味だったんだけど、伝わってる?」

 頭が真っ白になり、呼吸が浅くなる。僅かな沈黙が流れたあと、先ほどの女性店員が飲み物と甘味を運んできた。
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