凄腕パイロットの極上愛で懐妊いたしました~臆病な彼女を溶かす溺愛初夜~
 椎名さんはボールペンを丁寧な所作で戻し、箱の上にそっと手を置く。

「俺が贈りものをしたから、お返しをしないといけないと思わせてしまったかな」

「そうじゃないと言ったら嘘になりますけど、椎名さんのお祝いをしたいと思ったのは事実です」

 背筋をピンと伸ばしてしっかり伝えると、椎名さんは僅かに両眉を上げた。

「もうひとつ聞いていい?」

 なんだろうと首を傾げる。

「同僚のご両親がやっているこの店に連れてきてくれたのは、どうして?」

「えっ?」

「俺と会っているのを周りに知られたくないんだろう? それなのにここに来たから、どうしてなのかと思ってね」

 椎名さんはとても真剣な表情でいる。やはりいろいろなところにまで気がつく人だなと苦い笑いをこぼした。

「朱莉ちゃんは今日ここには来ないです。女将さんは私の顔を覚えていないし、話が伝わる心配もないです。この場所は多くの人に知られているわけではないし、知り合いに会う確率も低いと思ったのでここを選びました」

 包み隠さず説明をすると、椎名さんは小さな溜め息を漏らした。

「まあ、そうだよな」

 椎名さんはついと視線を逸らし、水滴がついたグラスからストローを使って一気に液体を吸い上げる。

 つられて私もアイスコーヒーを飲む。氷が溶けて味が薄まっていた。
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