凄腕パイロットの極上愛で懐妊いたしました~臆病な彼女を溶かす溺愛初夜~
 しばらく見つめ合い、どうしても決心がつかなかった私は静かに首を縦に振った。

「ここですぐに振られなくてよかったよ」

 自嘲気味に笑う顔を見ていられなくて目を伏せる。

「そろそろ行こうか。あまり長居しても迷惑だろうし」

 私の返事を待たずに椎名さんが手を上げてお会計を頼んだ。

 席までやってきた女将にお札を渡すのを黙って見守る。女将がつり銭の準備をするため席を離れたところで「あの」と、ようやく声を出したら。

「これくらいご馳走させて。プレゼントのお礼だと思ってくれればいいよ」

 こちらの考えなんてお見通しだ。ありがたく厚意を受け取って頭を下げる。

「ありがとうございます。ご馳走さまでした」

「こちらこそいいお店を教えてくれてありがとう」

 優しい目つきで言われて胸がぎゅうっと締めつけられる。

 正式な言葉を受け取った今、ドキドキなんていう表現はできない。これは、やりきれなさが混じった甘く切ない痛みだ。
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