凄腕パイロットの極上愛で懐妊いたしました~臆病な彼女を溶かす溺愛初夜~
「新川さん」

 足早に近寄って彼女の細い腕を掴む。目を丸くして驚きを露わにした新川さんは、口を半開きにしたまま固まった。

「大丈夫か?」

 たったひと言。それだけで新川さんの表情がかげり、瞳が揺らいだ。

「体調が悪いなら、無理をせず周りに言った方がいい」

「違うんです」

 新川さんは消え入りそうな声で頭を左右に振る。それから周りに視線を走らせた。

 スタッフたちが何事かとこちらの様子をうかがっている。二階堂にいたっては、俺の背後霊かと突っ込みたくなるほど、すぐうしろで待機していた。

「業務中だから、というのは気にしなくていい。仕事にイレギュラーはつきものだ」

 俺の言葉に新川さんはふっくらとした唇を一度引き結んでから、遠慮がちに口を開いた。

「さっき、オフィスに病院から電話が入って。母が倒れて運び込まれたと」

 心臓がドクッと嫌な音を立てた。しかしここで下手な反応をしたら余計に彼女の不安を煽る。だから平静を心がけて続きを促す。

「母が勤めている会社で突然倒れたそうなんです。意識はあるんですけど、会話がままならないので家族の私に連絡をしたらしく。ただ命にかかわるようなものでは……」

「それで、どうして君はまだここにいるんだ?」

 言い終わる前に口を挟むと、新川さんはキョトンとする。
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