凄腕パイロットの極上愛で懐妊いたしました~臆病な彼女を溶かす溺愛初夜~
「最悪」

 これからどんな顔をして椎名さんに会えばいいの。

 苦悩した直後、いや、今まで通りほとんど顔を合わす機会は訪れないだろうと息をつく。

 そうだよ、頻繁に話をするグランドスタッフの同僚とはわけが違う。

 国内線だけでなく国際線のフライトがある彼は、月の半分は日本にいない。

 昨日の今日で気まずさがあるけれど、きっと数日経てば気持ちは落ち着くだろう。

 これ以上考えるのは止めようと顔を上げて体勢を崩した。そこで姉が身じろぎして、布団をめくりながらがばっと上体を起こす。

「……あれ?」

「おはよう日菜香ちゃん」

 ベッドから降りて、まだ寝惚けている姉を尻目に冷蔵庫へ向かった。

「昨日部屋に着くなり寝ちゃったから、化粧も落としてないよ。すぐシャワー浴びた方がいいと思う」

 苦い笑いをこぼしながら、冷蔵庫から取り出したペットボトルのお茶を手渡す。

 姉はそれを受け取って、のんびりと蓋を開けながら目をぱしぱしとする。

「うわっ。上と下の睫毛がくっついてる」

「ちなみに九時を過ぎたところ。ホテルの朝食バイキングが十時までに行かないといけなかったよね。どうする?」

「シャワーだけ浴びさせて! 化粧はあとにする!」

 寝起きのいい姉は、お茶を飲んだら早送り再生のような動きで準備に取りかかった。
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