凄腕パイロットの極上愛で懐妊いたしました~臆病な彼女を溶かす溺愛初夜~
 航空事故は、離陸時の三分間と着陸時の八分間に集中していることから、航空業界には“魔の十一分間”という言葉がある。

 そしてパイロットの間では、圧倒的に離陸のときの方が緊張すると言われている。それは着陸時と離陸時では時速百キロ近く違うからだ。

 俺が今操縦桿を握っている機体が離陸するときの速度は、時速三百五十キロ。

 十一時半、離陸。

 エンジンを全開にし、フルパワーで加速する。耳の奥まで響いてくるような轟音が緊張感を煽る。

 全身を揺らす振動が、まるで鼓動と共鳴しているようだ。

 隣に座るコーパイの紺野が離陸決心速度、「V1」とコールする。

 万が一この速度を超えてから離陸中止を判断すると、オーバーランしてしまい大事故へ繋がる。だから例えエンジンひとつ停止しても離陸しなければならない。

「VR」

 飛行機の引き上げ速度。紺野のコールに合わせて操縦桿を手前に引き機体を上昇させる。

「V2」

 安全離陸速度。飛行機が地面を離れ、安全に上昇が続けられる速度に達した。
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