クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~



「ったく……自分の母親の恩人相手にかわいげねぇな」



ポロッとこぼされたそのひと言が耳に留まる。



「え……?」

「母さんから聞いたけど、アンタ前にうちの病院にかかってたんだってな。名前で調べたらすぐ情報出てきたよ」



そういえば私、先日由岐先生のお母さんに、由岐先生のお世話になったときのことを話したっけ。

それを彼も聞いたのだろうけれど……『母親の恩人』って、どう言う意味?

話についていけずにいる私に智成さんは続ける。



「そういやもう何年も前、俺がここで外科医やってたときに大きな事故があったの思い出したよ。

搬送された沢山の患者の中に、重症の母親と中学生の娘がいたのも」

「待ってください。母の恩人って、あの日母を助けてくれたのは由岐先生じゃ……」

「なに言ってんだよ、あの日アンタの母親を手術したのは俺。あの頃徹也はまだ研修医だったし、あの場で手術なんてできなかったからな」



あの日、お母さんの手術をしたのは智成さん?



……確かに、そうだ。

年齢から考えてみれば、あの頃由岐先生はまだ研修医だ。なんでずっと気付かなかったんだろう。

じゃあもしかして、あの日あの場で私を励ましてくれたのはーー



「……もしかして、あの日私を励ましてくれたのも……」



微かに震える声で、恐る恐る問いかける。

その言葉に智成さんは少し黙ってから、ふっと笑って頷いた。



「そうだよ、俺」



そのひと言に、一瞬で頭が真っ白になった。


  
< 102 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop