クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「ずっと嘘ついてたんですか?どうして……」
もしかして、心の中で笑ってた?
ひとつの嘘を信じて、思い出に浸っていた私を。
初恋の人が誰かすら見分けもつかずにいた私を。
……情けない。
恥ずかしい。悲しい。
きっと、これまでの私の由岐先生を想う気持ちはなにひとつ伝わってなんていなかった。
それどころか、全部思い違いで。
全部、全部嘘だった。
その事実に、ぽたっと涙がひとつこぼれた。
「……違うんだ、美浜。俺はただ……」
由岐先生は言いかけて、また言葉を濁す。
その態度からそれ以上の言葉を聞きたくなくて、私はその場を立ち去った。
あの日の悲しい表情や言いかけていた言葉は、このことだったんだ。
……嘘だったなんて信じたくない。
だって確かに、あの日の手の優しさは彼のものだったはず。
それに、この胸にいるのはもうあの日の彼だけじゃない。
無愛想で、あたたかくて、私のことも頼のことも包んでくれる。
そんな今の彼に対する愛情で溢れているのに。
もう、なにを信じたらいいかわからないよ。