クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「あの日アンタの母親を手術したのは俺だ、そこは間違いない。けど手術室の外にいたのは……徹也だよ。
俺はただ、手術室の外にアンタがいたのを一瞬見かけただけ」
「え……」
それはつまり、あの日私を励ましてくれたのはやはり由岐先生だったということ。
どうして……それならそうと、ちゃんと言ってくれたらよかったのに。
……いや、それを聞き入れないであろう疑いの目を向けてしまったのは私だ。
あの日の由岐先生の優しさ、救われた自分の心。
全て大切なものなのに、疑ってしまうなんて。
尚更、私が由岐先生のそばにいる資格なんてない。
泣きそうになりながら、涙をぐっとこらえて笑う。
「……もういいんです、すみません」
「え?」
そんな私の反応は予想外だったようで、智成さんは驚いた声を出す。
「信じることもできなかった私に、今更由岐先生と話す資格なんてないので」
「いや、けど」
「それに私、お見合いするんです。初恋とか思い出とか、もう忘れることにしたんです」
それだけ言って、私は頼を連れてその場をあとにした。
その言葉は、私なりの精いっぱいの強がりだ。
もう全部過去にする。
そしていつか由岐先生にはふさわしい人が現れて、きっと幸せになるだろう。
信じられることすらできなかった私とは違う人が。