クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「……美浜があの日『好き』と言ったのは、母親を助けた医者である俺に対してだと、思ってたから」
「え……?」
「当時の俺は、いくら知識や気持ちがあっても立場上はただの研修医で、血まみれで担ぎ込まれる患者にもなにもできなくてもどかしかった。
そんななにもできなかった俺のことを知ったら、美浜の心が離れてしまうんじゃないかって。ずっと、怖かった」
私が由岐先生の本心を知るのが怖かったように、由岐先生も恐れていたの?
その事実に、私は小さく首を横に振った。
「違います。私は……もちろん母を助けてもらったことも感謝してます。だけど、あの日不安で怖くて悲しかった、そんな心に寄り添ってくれたあなたに惹かれたんです」
『助けてみせる』
あの言葉がたとえ彼なりの見栄だったとしても。
「由岐先生が『大丈夫』って言ってくれたから。例えそれが嘘でも見栄でも、それだけで強くなれたんです」
その言葉が私を支えてくれたことには変わりないから。
失望なんてしない、心が離れることなんてない。
そう伝えるように、彼の腕に頭を預けた。
「けどどうしてここに……?」
「兄貴から聞いた。『あの子もうお前のことはいいんだってさ』って嫌味つきで」
「智成さんが……」
智成さんが、というのは少し意外だった。
由岐先生のことをよく思っていないのなら、わざわざお見合いの話を彼に伝えたりしないだろう。
この前も一応謝りにきてくれたみたいだし、智成さんなりに悪いと思ってうまくいくようにしてくれたのかもしれない。