クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~



「それで看護師に聞いたら、清掃員と美浜がお見合いの話をしていたのを聞いたという者がいたから、そこから情報を得た」



そういえば、原田さんから日程や場所が決まったと知らされたのは病院内の廊下だった。

様々な人が行き交っていた中に、外科の看護師さんもいたのだろう。

まさかそんなところから知られるとはと思う反面、彼が知ろうと聞き回ってくれたのだと想像すると少し嬉しくなった。



由岐先生を見つめていると、彼は私の濡れた目元を指先でそっと拭ってくれる。

そしてひとつ息を吸って話を始めた。



「美浜と再会したあのとき、俺にはすでに婚約者がいて海外転勤の話もほとんど決まっていたんだ。けど、迷いも不安もあった」

「え……由岐先生って、迷ったりするんですか?」

「当たり前だ。このまま結婚していいんだろうかという迷いと、見知らぬ土地で自分がやっていけるんだろうかという不安、いろんな気持ちに押し潰されそうだったよ」



そうだったんだ……。

結婚や仕事に迷いや不安を覚えるのは、由岐先生も同じだったんだ。



「そんな中で友人から気分転換に、ってあのパーティーに誘われて美浜と出会った。もちろん最初はわからなかったけど、話を聞いてすぐ思い出したよ、あの日の女の子のこと」

「本当、ですか?」

「あぁ。けど俺以上にあの日のことを覚えていて、自分を追いかけてくれた美浜のひたむきさに心を打たれた。

医者としてなにもできなかった自分のことを好きだと伝えてくれた、そんな美浜の言葉から心にあった不安が解消されるのを感じたんだ」



私の言葉が、由岐先生の不安を消した……?

これまでずっと自分だけが支えられていると思っていたけれど、その言葉からそうじゃないと知った。


  
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