クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~



「結婚はこれほどまでに心焦がれる相手とするべきだと、婚約解消の決心が固まった。婚約者には翌日すぐ、婚約解消のことを伝えたよ」

「婚約者さんは、大丈夫だったんですか?」

「いや、もの凄く怒ってたな。けどそれでこちらの気持ちが変わるわけじゃないと悟ると引き下がってくれた」



由岐先生は「なのに」と付け足しながら、私にこつんと額を合わせる。



「美浜は朝起きたらいないし、連絡先もわからないし。外科や内科、身近な医師や看護師に聞いてみても『そんな看護師は知らない』と言うし……もう二度と、会えないかと思った」

「たしかに、私名前しか名乗ってなかったですもんね」

「だからその分、また会えたときは嬉しかったし、恋人がいると言われたときはショックだったな。まぁおかげで、美浜を忘れたくて仕事に没頭して海外で大きな評価を得たわけだけど」



よかったのか悪かったのか、と苦笑いをこぼすと由岐先生は下から見上げる頼の頭をそっと撫でた。



「でも帰国してまた美浜に会って、やっぱり嬉しかった。それに頼を見てすぐ自分の子供だってわかったよ」

「由岐先生の子供の頃そっくりだから、でしたっけ」

「あぁ。それに、それ以上にどこか感じるものもあったから」



それはきっと、頼が彼に感じているものと同じようなもの。

目に見えない、親子の絆というものだろう。



「けど、美浜は『他の男との子』だと嘘をつこうとするし、ひとりで背負おうとするくらい俺との関係を断ち切りたいのかと思った」



私がついた嘘に対して悔しそうな声で言う由岐先生に、私は首を横に振る。


  
< 114 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop