クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~



「ここでならゆっくり休めるだろ。気分はどうだ?」

「い、いろんな意味で吐きそうです……」

「それはまずいな。水持ってくる」



いや、違うんです。こんな高級な部屋に恐れおののいているのと、現状に対する不安からの吐き気なんです。

そんな真意に気づくことなく、彼はリビングルームからグラスに水を一杯注いで持ってきてくれた。



「ほら、水」

「すみません……ありがとうございます」



それを受け取りひと口飲むと、冷たい水に喉がすっきりして気持ちが少し落ち着いた。



「それにしても、ずいぶん飲まされたみたいだな」

「飲みやすいからって勧められて、つい」

「飲みやすいからこそ危ないんだ、それくらいは危機意識を持っておくんだな。医者にだって悪い男はいる。次は気をつけろよ」



厳しい口調で言いながら、彼はぽんぽんと私の頭を軽く撫でた。

大きな手、優しい力加減……この感覚、どこかで。

ふと気づいて、先程彼が『由岐先生』と呼ばれていたことを思い出す。



「あの、『由岐先生』って……」

「ん?あぁ、そういえば名乗ってなかったな。俺は外科医の由岐だ」



外科医の、由岐先生。

それってもしかして、あの日私を救ってくれた『ユキ先生』……?


  
< 13 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop