クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「ここでならゆっくり休めるだろ。気分はどうだ?」
「い、いろんな意味で吐きそうです……」
「それはまずいな。水持ってくる」
いや、違うんです。こんな高級な部屋に恐れおののいているのと、現状に対する不安からの吐き気なんです。
そんな真意に気づくことなく、彼はリビングルームからグラスに水を一杯注いで持ってきてくれた。
「ほら、水」
「すみません……ありがとうございます」
それを受け取りひと口飲むと、冷たい水に喉がすっきりして気持ちが少し落ち着いた。
「それにしても、ずいぶん飲まされたみたいだな」
「飲みやすいからって勧められて、つい」
「飲みやすいからこそ危ないんだ、それくらいは危機意識を持っておくんだな。医者にだって悪い男はいる。次は気をつけろよ」
厳しい口調で言いながら、彼はぽんぽんと私の頭を軽く撫でた。
大きな手、優しい力加減……この感覚、どこかで。
ふと気づいて、先程彼が『由岐先生』と呼ばれていたことを思い出す。
「あの、『由岐先生』って……」
「ん?あぁ、そういえば名乗ってなかったな。俺は外科医の由岐だ」
外科医の、由岐先生。
それってもしかして、あの日私を救ってくれた『ユキ先生』……?