クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「外科医としての腕もよくて、次期院長は確実なうえにあのかっこいい顔とクールな態度!反則だよねぇ」
「じゃあきっとモテるよね……?」
「うん、超モテるよ。でも美人の婚約者がいるらしくてさ、告白とかされても誰ひとり相手にしてないって噂」
『婚約者』。
その響きがぐさりと胸に刺さる。
思わず言葉を失う私に、鏡花ちゃんはなんの気なしに話を続ける。
「それに医師としての実力を買われて、海外にある系列病院に何年かいくらしいよ。なにもかも揃ってて、本当別世界の人って感じ」
そこまで話したところで、奥から中年の看護師に呼ばれた。
「ふたりとも朝礼始めるよー、集合して」
「はーい」
それから朝礼の最中も、私の頭の中は先程の鏡花ちゃんの話でいっぱいだった。
由岐先生は、違う世界の人だった。
かっこよくて人気で、次期院長で、医師としても評価されていて、海外転勤の話も出ていて……婚約者もいる。
ずっと会いたかった、どんな人か知りたかった。
だけど初めて知るそのひとつひとつが、重く心に沈んでいく。
一介のクラークの私にとっては、本来なら手の届かない人。
だけど昨夜は気持ちを聞き入れ、抱いてくれた。そんな夜があっただけでも幸せなのかもしれない。
……今朝、顔を合わせなくてよかったかも。
なにか少しでもいいことを言われたら、期待しただろう。
婚約者がいる、と彼から直接言われたら、今以上にショックだっただろう。
昨夜のことは私ひとりの思い出にする、その判断は間違いなんかじゃなかった。