クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
妊娠……。
由岐先生とのあいだの子供が、お腹のなかにいる。
あまりに突然のことに言葉を失う私に、それまでにこにことしていた医師がなにかを察するように問いかけた。
「荻野さんは現在未婚のようですが……お相手は恋人ですか?」
「あ……えと」
恋人ですらないことから、答えに迷ってしまう。私の態度に医師は真剣な顔で言った。
「まずは生むかどうかを決めましょう。ひとりで育てるにせよ、誰かと育てるにせよ、人ひとりの命を背負う責任を考えて判断してください」
医師の言葉に、私はなにも答えられずに診察室をあとにした。
帰り道を歩くあいだも、頭の中で考えはまとまらないまま。
どうしよう。
このお腹に由岐先生とのあいだの子供がいるなんて。
あのことはたったひと晩だけの出来事で、彼の気持ちはわからない。遊びかもしれないし同情かもしれない。
それに、婚約者もいてエリートとしての道を着実に歩んでいる。そんな彼にこんなこと言えるわけがない。
もしも彼自身が頷いたとしても、周りの目がよしとしないだろう。
だけど私は……あの夜の由岐先生のぬくもりが、忘れられない。
6年前からずっと好きだった、ううん、今でも想っている彼のキスをなかったことにはできない。
それに、芽生えた小さな命をなかったことにするなんてできない。
決意するように、私は一度足を止める。
「……生みたい」
彼とのあいだにできた命なら、自分の人生を捧げても構わない。
誰が父親かなんて公にできなくても、未婚の母と呼ばれてもいい。
ひとりで生んで、育ててみせる。
そう決意して見上げた空は、清々しいほどの青空だ。
私は足の向きを変え、来た方向へ戻り始める。
そして再び病院へ戻ると自分の意思を医師へ伝えたのだった。