クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~



それからは産前産後の準備をしたり、保育所を探したり、と慌ただしく日々を過ごした。



職場にはまだ妊娠のことは黙って働いているけれど、日に日につわりがひどくなってきているし、職場や親にもそろそろ話さなければ。

周囲に妊娠の話をしたら、父親が誰が絶対聞かれるだろうなぁ。特に両親にはなんて説明すればいいのか……。



妊娠発覚から一ヶ月が経とうとしているある日の仕事中。

そんなことを考えながら私は小児科病棟から総合受付へ続く廊下を歩いていた。

するとたまたま通りがかった看護師さんたちの会話が耳に入った。



「聞いた?由岐先生、来月から海外の系列病院に行くの確定したらしいよ。あーあ、職場からまたひとりイケメンが減っちゃう」

「じゃあ噂の婚約者も一緒に行って、ついに結婚って感じかな。いいなー、院長息子と結婚からの海外生活!」



そっか、由岐先生来月から海外なんだ……。

それに婚約者とも、話は進んでいるのだろう。



やっぱり、妊娠のことは彼には言えないと改めて思う。

妊娠のことを伝えて、困った顔をさせたくない。

『そんなことしていない』となかったことにもしてほしくない。



どうせ叶わない恋なのだから、せめてこの胸の中ではいい思い出のままでいたい。

だから私は、ひとりでこの子を生み育てると決めたんだ。



そう自分に言い聞かせるけれど、胸の中にふと不安がよぎる。



……でも、大丈夫なのかな。

ひとりで生んで育てるなんてできるのかな。



もしも私がダメになってしまったら。

もしも父親がいないことで子供を悲しませてしまったら。

万が一、子供を愛することができなかったら。



考えるだけで不安で胸がいっぱいになり、一気に吐き気が押し寄せる。

歩くことはおろか、足からは力が抜けてしまい私はその場にうずくまった。


  
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