クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~



「私、恋人がいるんです」

「え?」

「だから、由岐先生とのあの日のことはただの勢いだったんです。初恋の人と再会して舞いあがっちゃいました」



口から嘘を吐きながら、精いっぱいの笑顔をつくる。そんな私の言葉に彼の眉が微かに動く。



「……俺には、お前がそういう人間には見えなかったけど」

「見えないだけでそういう人間なんです。だからもうあの時のことは忘れてください。私も、彼に悪いから忘れたいんです」



本音を全て押し殺して言った私に、由岐先生は少し黙ってから口をひらく。



「『好き』だって言ったのも、その場の勢いか?」

「……『好きだった』ってだけです。過去形ですよ」



私の答えに、一瞬彼は悲しげに顔を歪めた。

その表情に胸がぎゅっと締め付けられ、泣いてしまいそうになる。

けど、その感情もまた飲み込んで私は彼に背中を向けて布団をかぶる。



「私、少し休んでから部署に戻りますから」



これ以上話したくない、といった私の態度に由岐先生は黙ったまま静かに部屋をあとにした。

パタン、とドアが閉じた音がして、この部屋にひとりになったと確信した途端、目からは一気に涙があふれだした。



ちゃんと我慢できた。この胸の切なさを微塵も彼に見せることなく。



由岐先生。最低なことを言って、ごめんなさい。

だけど、こんな私をすぐ忘れてくれてほしいから。



本当は今でも好きなのに。

好きだから、このままさようなら。



泣きながら私はそっとお腹をさする。



ごめんね、あなたから父親を奪って。

でもその分、私があなたを守ってみせる。

愛する人とのあいだにできたあなたを、世界一幸せにしてみせる。



ママ、強くなるって決めたからね。

お腹の中のまだ見ぬ子に、ひとり誓った。




 
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