クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
*3
あれから季節は二度めぐり、私は24歳の秋を迎えた。
変わらず小児クラークとして勤務している私は、夕方5時すぎを指す時計を見上げて席を立った。
「すみません、お先に失礼します」
ナースステーションにいる看護師たちに小さくお辞儀をして、私はその場を後にする。
「荻。私もちょうどあがりの時間だから、一緒に出よ」
そこへ声をかけてきたのは、あの頃より少しだけ髪を伸ばした鏡花ちゃんだ。
「お迎え寄ってくけどいい?」
「もちろん」
ふたりで廊下を歩き、関係者用通路からロッカールームへ向かう。そして私服に着替えると建物を出て、病院の敷地内を歩いた。
広い中庭を抜け、まっすぐ歩いてきた先にあるのは小さな建物。
『キッズルーム』と書かれたそこは、この病院内で勤務する親を対象にした保育所だ。
その中の一番下のクラスを窓ガラス越しに覗くと、そこには黒く短い髪の毛の小さな姿が見えた。
「頼」
「まんまぁー!」
その黒い瞳は私をとらえた途端、とてとてとおぼつかない足取りで駆け寄ってくる。
そしてしゃがんで迎えた私に、ぎゅうっと力いっぱい抱きついた。
「ふふ、頼くん今日もママ大好きですね」
笑いながら荷物を持ってきてくれる保育士さんに、私は頼とともに笑いながらお辞儀をして保育所をあとにした。