クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「ちょっと、頼待ってー!」
「やぁー!」
すると次の瞬間、よそ見をしていた頼は前を歩いていた誰かに思い切りぶつかってしまう。
反動で尻餅をつき、その人を見上げる頼に私は慌てて駆け寄った。
「こら頼!だからいきなり走っちゃダメって言ってるでしょ!すみません、大丈夫ですか……」
そして頼を立ち上がらせながら、目の前に立つその人を見上げる。
ところがそこにいたのは、黒のジャケットに身を包んだ彼……由岐先生、だった。
由岐、先生……。
昨日鏡花ちゃんが話していた通り、戻ってきたのだろう。だけどまさか、こんな早々に再会するなんて。
あの日以来、二年半ぶりに合わせた顔にうまく言葉が出てこない。
それどころか、名前すら、喉の奥に詰まって呼べない。
「美浜……?」
彼も突然の再会に驚いているのだろう。ぼそ、と名前を呼びながら、私とその隣の頼へ視線を移す。
その視線の動きにハッと頼の存在を思い出した私は、慌てて頼を抱き上げると駆け足でその場をあとにした。
「あっおい美浜!」
呼び止められても、足を止めて振り向くわけにはいかない。
今の自分の動揺も、頼の父親が彼だということも、悟られるわけにはいかないから。
思わず頼を抱える手に力が入る。
すると不意に頬には小さな手が触れる感触がした。
その温もりにふと頼を見ると、腕の中の頼はどこか不安げな目で私を見ていた。
「まんまぁー?」
私の動揺が、頼にも伝わってしまっていたのだろうか。
……ダメだ。ちょっと顔を合わせたくらいでこんなふうに動揺して、逃げたりして。
私がこんなんじゃ、頼だって不安になるよね。
「ごめんね。なんでもないよ、大丈夫」
『大丈夫』、そう伝えて頼の小さな頭を撫でる。
あの日私が彼からしてもらったのと同じ、おまじないをかけるように。