クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
頼のおかげで平常心を取り戻した私は、頼を保育所へ送り届けるといつものように小児科へ出勤した。
「荻野さん、今外科から連絡があって処置室まで書類を取りに来てほしいって」
「わかりました」
仕事を始めようとしたタイミングで看護師さんからの伝言を受け、私は外科へ向かう。
子供の病状によっては専門医に診てもらうことも多い。そのカルテや書類を取りに行ったりすることも私の役目のひとつだ。
でもいつもならナースセンターに取りに行くのに、なんで今日は処置室なんだろう。
不思議に思いながらも外科の処置室へと向かう。
けれどそこにいたのは、スクラブに白衣を羽織った先程の彼、由岐先生だった。
「来たな」
ふっと笑ってみせるその表情から、書類は口実で、先程逃げ出した私を彼が呼び出したのだと気づいた。
「……書類を取りに来ただけです」
冷静を装い彼に近づき、その手が持つ書類へ手を伸ばす。
けれど由岐先生はそんな私の手をするりと避ける様に書類を頭上へ持ち上げた。
話をするまで渡さない、ということなのだろう。
その態度に私が観念して向き合うと、由岐先生は話を始めた。
「さっき、なんで逃げた?」
「別に、少し驚いただけです。挨拶もせずにすみませんでした」
久しぶりに顔を見ることができて嬉しいのに。感情を押し殺して話すと、どうしてもそっけない言い方になってしまう。
そんな私に、由岐先生は黒い瞳でじっと見つめたまま。