クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「余計なお世話です。あなたの手を借りなくたってこれまで通り、頼はひとりで育てられますから」
そしてそう言い切ると由岐先生の右手から書類を奪い、私は足早に部屋を出た。
いきなり、なにを言い出すんだか。
彼にとっての私は、たった一晩の相手で、しかも恋人がいるのに彼と寝たなんていうような女なのに。
見て見ぬふりはできない、なんて……。
ひとりで育てていくって決めたのに、そんなふうに言われて嬉しく思ってしまう自分がいる。
……手の感触が、まだ残ってる。
骨っぽい大きな手があの夜の彼を思い出させて、また胸をときめかせると同時にきゅっと締め付けた。
外科を出て、小児科病棟へ続く廊下を歩いていると、突然声をかけられた。
「あっ、いたいた!荻野さん」
振り向くと、そこにいたのは数回顔を合わせたことがある耳鼻咽喉科の看護師、加持さんだ。
確か彼女も2歳の子供を持つ一児の母だ。
私を探していたような言い方をする彼女に、私は小さく会釈をする。
「お疲れさまです、どうかしましたか?」
「実は今週末、親子ランチ会があるんだけど荻野さんも参加しない?」
「親子ランチ会……?」
そういえば、そんなものがあると以前鏡花ちゃんから聞いたことがある。
病院内の関係者で、歳の近い子供を持つお母さん同士が集まってランチをしたりお茶をしたりという交流会があるのだそう。
けれど鏡花ちゃんいわく『医師の奥さん同士がマウント取り合って喧嘩になった』とかあまりよくない話もあるらしい。
それを思い出しながら返事を濁らせてしまう私に、加持さんはにこやかに笑う。