クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「まぁまぁ、それぞれ事情があるだろうし……」
「子供作っておいて責任も取らないなんて、ダメな男に引っかかっちゃった?それとも父親が誰かわからないくらい遊んじゃってうっかりできちゃったとか?」
けれど主任夫人は止まることなく、それどころか声を大きくして言ってみせる。
「そんなんじゃ子供もまともに育たないよー?母親に見る目がないと子供が可哀想だよねー」
バカにするように言う彼女に、周囲はなんといっていいかわからない、と言ったふうに黙り込む。
そんな空気に気づくことなく、彼女はおかしそうに笑った。
……なんでこんなふうに言われなくちゃいけないの。
自分のことならまだしも、頼のこと、そして頼の父親である彼のことまで。
私がどれほど彼を好きだったかも、どれほどの思いで生むことを決めたかも、嘘に嘘を重ねて身を引いたかも知らずに。
それらの気持ちが沸々と湧き上がり頂点に達したとき、ついテーブルを勢いよく叩こうとした。
その時だった。
「この子の父親は、俺だけど」
頭上から降る声に、その場の全員の視線が一気にこちらへ集中する。
私も驚きながら顔を上げるとそこにいたのは、白いシャツにジャケット姿の由岐先生だった。
「由岐先生……?」
どうして彼がここに、と私が驚き尋ねようとする前にその場は騒然とした。
中でも主任夫人は顔を真っ青にさせ焦る。
「えっ……!?父親って、由岐先生がですか!?」
「あぁ。これまで事情があって籍を入れていなかっただけで、近々入籍もする」
え!?そんな話ありませんけど!?
心の中で叫ぶ私の前で、彼はしれっと嘘をついてみせ、「けど」と言葉を続ける。
「父親がいなかろうが未婚の母だろうが、ひとりでも頑張って子供を育てようとしている人を笑うような発言はやめろ」
「なっ……」
「自分の親がそんなことを言っている、言われている、そう気づいたとき自分の子供がどう感じるかを考えるべきだ」
その言葉とともに由岐先生は視線を横に向ける。
つられるように見ると、そこにはなにかあったのだろうかと不安げにこちらを見る子供たちがいた。
自分たちに向けられた眼差しに気づき、主任夫人はカッと顔を赤くすると黙り込んだ。