クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「ん?どうかしたか?」
「いえ、意外と子供好きなんだと思って」
「別に好きなわけじゃないけど……子供にはよく泣かれるし」
あぁ……なんかわかるかも。
にこやかさのない彼は、大人からすればクールでかっこいいけれど、子供からすればちょっと怖いだろう。
納得してしまい苦笑いしていると、由岐先生は頼の頭を撫でる。
「だから、泣かずにこうして懐いてもらえるのは嬉しいな。よし、頼。抱っこするか」
「きゃーあ!」
嬉しそうに声をあげる頼を由岐先生は軽々と抱き上げ、そのまま保育所へ向かい歩き出した。
その姿はまるで、これまでもずっと一緒に過ごしてきた親子のようでこの心をあたたかくさせた。
すると道中、由岐先生がふと思い出したように言う。
「そうだ、これ」
「え?」
彼が胸ポケットから取り出し、差し出した一枚の紙。
それを手に取りひらいて見てみると、そこには『婚姻届』と書かれている。
婚姻届って……婚姻届!!?
「なんですかこれ!?」
「見ての通り婚姻届だけど。子供もいるんだ、籍を入れるのは自然なことだろ」
「は……!?」
籍をって……どこまで本気で言っているんだか。
「結構です。何度も言ってる通り、私は頼をひとりで育てますから!」
私はそう言うと、婚姻届を再度折りたたみ、彼のジャケットのポケットに無理矢理押し込んだ。
婚姻届を、彼が冗談で用意するとは思えない。
けど、私相手に本気になるとも思えない。
その胸に気持ちがあるとすればやはり、責任感や同情だろうか。