クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「ちょっと荻!どういうこと!?」
その日の午後。遅番で出勤してきた鏡花ちゃんは、開口一番に問いただした。
その言葉から、彼女の耳にも噂が入ったのだろうと察する。
「頼の父親が由岐先生だったなんて!しかも入籍するなんて聞いてないよ!なんで言ってくれなかったのー!」
「きょ、鏡花ちゃん落ち着いて……」
私の肩を掴みガクガクと揺らす鏡花ちゃんを、苦笑いで制止する。
「違うの、そうじゃなくて実は……」
そして噂話の真偽を鏡花ちゃんへ説明した。
頼の父親は由岐先生ではないこと、ランチ会でひどいことを言われたところを由岐先生が庇ってくれただけなこと、入籍等はその場しのぎの嘘だということ。
半分本当で半分嘘の説明に、鏡花ちゃんは「そうだったの!」とあっさり信じてくれた。
「でも由岐先生、クールなイメージだったけどそういう優しいところあるんだね」
「そ、そうかな」
「そうだよ。こうやって噂になるってわかっていながら、そんなふうに庇ってくれるなんていい人じゃん」
確かに、あんなふうに人前で公言すれば噂になるなんて簡単に想像がつくだろう。
だけどそれも構わず庇ってくれた。それもまた、彼の言う『したいようにした』こと?
「……あれ、噂をすれば」
「え?」
話しながら遠くに視線を留める鏡花ちゃんに、つられて私も目を向けると廊下の奥に立つ由岐先生が見えた。
朝のジャケット姿とは違う、白衣に身を包んだ彼は真剣な顔で看護師さんとなにかを話している。