クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~



「めずらしいね、由岐先生が小児科に来るなんて」

「ほら、小児科の田中先生が産休入るじゃない?だから今度から小児外科も手伝うらしいよ」

「へぇ……」



そうなんだ、と納得していると、そこへ制服姿の女性事務員がやってくる。

私より年下だろう、若い事務員は由岐先生が看護師さんとの会話を終えたタイミングで話しかけると一枚のメモを渡そうとした。

ところが由岐先生は真顔のままそれを突き返すと、すぐさま手元のカルテへ視線を移した。



今のは……。



「今のは確実に、事務員の子に連絡先渡されそうになってたね」



同じ光景を見ていた鏡花ちゃんが、私が思ったことと同じことを口にする。



「やっぱり由岐先生ってモテるんだね」

「そりゃあもちろん!でもああして簡単に連絡先受け取ったりしないところが、しっかりしててまたいいよね。あそこで連絡先もらっちゃったり浮かれるような男は絶対ダメ!」



なにか思い当たることでもあるのか、鏡花ちゃんは力説する。



聞いていた通り、やっぱりモテるよね。

なのにどうして、あの日私と寝たりしたんだろう。

由岐先生は『なんの感情もなく抱いたりしない』なんて言ってたけど……じゃあどんな感情で、抱いたんだろう。



ていうか、婚約者はどうなったんだろう。

私に婚姻届を渡してきたってことは結婚はまだなんだろうけど。



ひとつ考えると次から次へと疑問が浮かび、あっという間に頭の中を埋め尽くしてしまう。



気になる、けど聞きたくない。

子供ができたから責任を取ろうとしてくれてるだけ。そうわかっていても、まだその甘い言葉に浸っていたいなんて思ってしまう。



その時だった。

突然病室のほうから、ガシャーン!となにかが倒れる音が響いた。



  
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