クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「由岐、先生……?」
「大丈夫か?」
「はい、私は大丈夫ですけど……」
まさか庇ってくれるとは思わず、私は肩を抱かれたまま頭上にある彼の顔を見上げる。
すると次の瞬間、由岐先生の額からはたらりと赤い血がたれた。
「えっ!?ゆ、由岐先生!血!血が!!」
「あぁ、これくらいなんともない」
「ありますから!誰かガーゼ!止血しないと!」
私を庇い、花瓶が額にぶつかったのだろう。血が出てしまったことでその場は騒然とする。
けれどそのおかげか、我に返った子供達は落ち着きを取り戻したあと看護師さんに宥められ泣き出した。
その場を鏡花ちゃんたちに任せて、私たちは処置室へ入った。
そして私は由岐先生の額の血を拭ってから、消毒液を染み込ませたガーゼでそっと撫でる。
思ったより傷は小さい。恐らく花瓶の飾り部分がぶつかってしまったのだろう。
「なんで庇ったりしたんですか……」
「あの状況で庇わないわけないだろ。美浜に怪我がなくてよかった」
安堵したように言う彼の優しさに、つい嬉しさを覚えながらもそれを堪えた。
「俺は小児科にはあんまり詳しくないけど、ああいうことは多いのか?」
ああいうこと、というのは先ほどの子供たちの喧嘩のことを指しているのだろう。
彼からの問いかけに、私はその額に白い絆創膏を貼りながら頷く。
「そうですね。たびたびあります」
そしてブラウスの袖をまくり、手の甲や腕にうっすらと残った引っ掻き傷や爪が食い込んだ痕を見せた。