クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「それともまだ想ってるわけ?前に話してたあの初恋の人のこと」
『初恋の人』。
その呼び名に心が微かに揺れた。
「べ、別にそうじゃないけど……」
「ふーん。まぁ、学生時代の初恋なんてただの思い出でしかないもんね」
ただの思い出……その通りだ。
わかってるのに、先程の自分の否定の言葉とは裏腹に今も胸の中では彼の姿が消せずにいる。
「おぎちゃん」
鏡花ちゃんと話していると、名前を呼ぶ小さな声が聞こえた。
振り向くとそこには髪をかわいらしくふたつに結んだ5歳の女の子、まりちゃんがいる。
うさぎの絵柄のパジャマを着た小さなまりちゃんに、私は視線を合わせるように屈んだ。
「まりちゃん。どうしたの?お部屋戻らないと」
「まりね、今日けんさがあるの。でもママがこれなくてふあんで…….だからいつもの、おまじないやって」
丸い瞳で不安そうに私を見る。その姿に私はそっと笑って、小さな頭を撫でた。
「『大丈夫』だよ、こわくない。先生も看護師さんも、おぎちゃんもついてるよ」
「ほんと……?」
「本当。勇気がでるおまじないをかけてあげたから、だから頑張ろうね」
目を見て伝えた言葉に、不安げだった顔はみるみるうちに明るくなり、笑顔で頷き病室へ戻っていった。
勇気が出る、安心するおまじない。
それは『大丈夫』の言葉とともに頭を撫でるだけの、簡単なこと。
だけど子供たちに繰り返し行っていたら、いつしか『おぎちゃんのおまじない』として、たびたび子供たちから頼まれるようになった。
気の持ち用的なものでしかないけれど、その言葉と手が不安な心の支えになることを私は知っている。
だってそれは、私が昔“彼”からしてもらったことだから。