クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
私には初恋の人がいる。
それは私が16歳の冬のこと。
地元である埼玉から母とふたりで都内に来ていたある日、信号待ちをしていたところに居眠り運転のトラックが突っ込むという大きな事故に巻き込まれた。
死傷者も多数出たその事故は、翌日新聞やニュースで大々的に報道されたほどだ。
私自身は軽傷で大した怪我ではなかったけれど、母は意識不明の重体だった。
そのとき母が搬送されたのがこの東京国際中央病院だった。
鳴り響くサイレンの音と、病院内を駆け抜けるストレッチャーの音、様々な人の声。
それらを聞きながら、事故のショックと母の容態に対する不安に胸が押しつぶされそうで、私は手術室の前のベンチでただ待つしかできなかった。
瞼の裏に焼きつく事故の光景。
耳に残る、沢山の人の痛がり苦しむ声。
母を亡くしてしまうかもしれない不安。
……こわい。
震えの止まらない手を膝の上で握り締めながら俯いていると
『大丈夫か?』
声をかけてくれたのが、彼だった。
俯いたままの視界の端に見えた白衣の裾から、それがこの病院の医師だと察した。
けれどその時の私に『大丈夫です』なんて気丈に振る舞う余裕もなく、私は下を向き黙ったまま。
そんな様子から不安を察してくれたのか、彼は私の頭をポン、と優しく撫でてくれた。
『大丈夫。お母さんは俺たち医者が必ず助ける。だから、信じて待っててくれ』
そう、芯のある声で言い切って。