クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「せっかくだし、一杯飲まないか?」
「……じゃあ、少しだけ」
小さく頷いた私を連れて、由岐先生はリビングの窓を開けテラスへ出る。
うちの小さなベランダとは比べ物にならないくらい広々としたテラスには、ベンチとテーブルが置かれており、そこにふたり並んで腰かけた。
「テラスにベンチなんて、本当にリッチですね」
「そうか?普段ひとりでボーっとするときくらいしか使わないけど」
話しながら由岐先生はボトルを開け、中身をグラスへ注ぐ。
炭酸の泡が浮かぶグラスを手に取ると、とりあえず、と互いにコンと合わせて小さく乾杯をした。
ひと口飲むと、すっきりとした炭酸と甘めのアルコールが喉を通り、肩の力が緩むのを感じる。
頼が生まれてから、こうしてゆっくりとお酒を飲むなんて初めてかも。
頼と過ごすにぎやかな夜も楽しいけれど、静かな夜もまた贅沢な気分だ。
ベンチの背もたれに寄りかかるように顔を上げると、目の前には東京の夜景が広がりつい目を奪われる。
「こんなにゆっくりした夜、久しぶり」
「子供といると夜もバタバタしてるだろうしな」
「そうなんです。さっきみたいにご飯食べて、お風呂入ろうとしたらぐずって、泣かれて疲れて頼と寝落ちって感じで」
苦笑いをした私に、由岐先生はその光景が想像つくかのように笑った。
「けど夫婦ふたりでも大変なことをひとりでこなしてきた美浜はすごいな。頼もいい子に育つわけだ」
「いい子に、育ってますかね」
「あぁ。言葉がまだ通じなくたって、笑顔を見てればわかる」
はっきりと言い切って笑ってくれる、その眼差しに胸がときめいた。