クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~



由岐先生の言葉はやっぱり、私に希望を与えてくれる。

たったひと言が嬉しくて勇気をくれて、自然と笑みがこぼれてしまう。



しばらく見つめ合うと、由岐先生はテーブルにグラスを置く。

そして私の頬にそっと手を添え、ゆっくりと顔を近付けた。



「ダメです!」

「ぶっ」



けれど私はつい、その顔を両手で思いきり押しのけた。



「なんでお前はそんなに俺を拒むんだよ」

「だって……その、婚約者はどうしたんですか!」



勇気を出してたずねたことに、由岐先生は少し驚いてから言う。



「なんだ、美浜もその話知ってたのか」

「……はい、噂で聞いて」



私の言葉に納得したように頷き、彼は言葉を続けた。



「婚約者の件なら、海外に行く前の時点で断った」

「え……?」



断った……?

まさかの言葉に驚きを隠せない。



「そもそも親が決めただけの話で、俺も彼女とは数回会っただけで食事くらいしかしてないしな」



そうだったんだ……。

由岐先生の言葉に、心からほっとしている自分がいる。

だからといって彼との関係が変わるわけじゃないのに。



「でもどうして断ったんですか?相手、有名病院の娘さんだったんですよね?」

「病院の利益につながるからとはいえ、親が勧めるまま結婚していいのかっていう迷いはずっとあってな。それが美浜に会ってから確信に変わった」

「え?」



私?

意味がわからず首を傾げると、由岐先生はふっと笑って再びこちらへ手を伸ばす。

そして私の髪を指先で優しく撫でた。


  
< 63 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop