クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
*8
『俺は――』
口をつぐんだ由岐先生が見せた、悲しい表情。
その顔は前にも一度見たことがある。
それは再会したあの夜、私が気持ちを伝えたときだった。
動物園に行ってから数日が経ったある日の午後。
今日もいつも通り小児科病棟の受付で仕事に追われていると、鏡花ちゃんから声をかけられた。
「ね、荻。見て見てこれ!」
「ん?なに?」
鏡花ちゃんが見るように示すパソコンの画面には、医療関係のニュースが載っている。
よく見るとそこには『東京国際中央病院 由岐徹也医師』の名前とともに、彼が全国でも数例しかない難しい手術を成功させたという記事が載っていた。
「へぇ……すごい」
「ね、こんなふうにニュースに載っちゃうなんて、やっぱり由岐先生すごいよねぇ」
難しい手術を……なんて、そんな話少しも聞いていなかった。というか、私や頼の前では仕事の話って一切しないかも。
まぁ、同じ医療関係ってだけで私じゃ由岐先生レベルの話についていけないからかもしれないけど。
でも由岐先生、思えば週に何日も夕方にはあがって私たちと帰って……仕事的に大丈夫なのかな。
もしかして時間作るために無理してるのかもしれない。お迎えはこなくていいって言った方がいいかな。
そう考えていると、周囲が突然ざわめく。
なんだろう、とカウンターから廊下をのぞくと、そこには書類を手にした白衣姿の由岐先生がこちらへ向かい歩いてきている。
看護師や入院患者、その家族、周囲の視線を一気に集めながらも彼はいつもの真顔のまま。