クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「由岐先生が今の立場にいるのは、彼自身が頑張ったからです。患者さんのことを考え寄り添い、勉強をして治療や手術に臨んでいるからです」
由岐先生が医師として、子供ひとりにすら真摯に向き合ってくれることを知っている。
部屋には沢山の本があって、今でも学び続けていることも知っている。
今の彼の評価や立場はそれらが結んだ結果で、それを『たまたま』や『運』なんて言われたくない。
「彼の努力を全て、『運』なんて言葉で片付けようとしないでください」
はっきりと力強く否定した私に、智成さんはカッと顔を赤くする。
「なんだと……!」
そして怒りのまま私に声を荒らげようとした、そのとき。
部屋の入口のほうからは、「ふっ」と笑う声がした。
見るとそこには、由岐先生が笑いをこらえるように肩を震わせながら立っていた。
「徹也お前っ……」
「悪い、まさか兄貴も嫌味言ったら言い返されるとは思わなかっただろうと思ったらおかしくてな」
やりとりを見ていたらしい由岐先生は、私のほうへ近付くと私の手元の箱を奪い代わりに持つ。
「なっ……バカにするな!お前はいつもそうだ!ちょっと要領がいいだけで俺を見下してっ……」
「見下したことなんて一度もない。兄貴が勝手にそう思ってるだけだろ。まぁ、俺のことはどう思ってもいいけど」
由岐先生は左手に箱を持ち替えると、右手で智成さんの襟ぐりをぐいっと掴む。