クールな外科医はママと息子を溺愛したくてたまらない~秘密の出産だったはずですが~
「……はい。私子供の頃に由岐先生にお世話になったことがあって、そのときに由岐先生に救われたんです」
「あらそうだったの、あの無愛想な子が」
「普段は無愛想なんですけど、優しいんです。今でも、その優しさに支えられてます」
つい笑みをこぼした私に、由岐先生のお母さんも嬉しそうに笑った。
「ありがとう。徹也のことちゃんと見て、思ってくれる子で安心したわ」
ふふ、と細めるその眼差しは優しい。
「私も夫もね、徹也の結婚相手が有名病院の娘さんだろうと一般家庭の娘さんだろうとなんだっていいの。元々婚約者の子も、徹也に結婚の気配が見えないからお膳立てしただけで」
「そう、だったんですか」
「望むことはひとつだけ。徹也と向き合い助け合える子だったらいい。……美浜ちゃんなら、大丈夫そうね」
由岐先生のお母さんは、つりあうとか立場の差とかそんなことは気にしていなかったんだ。
どんな相手だろうと、由岐先生自身の幸せをただ願っている。
優しく微笑む由岐先生のお母さんの愛情に、胸が温かくなると同時に、奥の方がチクリと痛んだ。
……向き合ってなんて、ない。
私は傷つくことが怖くて、自分の本音も伝えずに誤魔化してばかりだ。
だけど今更、素直になんて言えない。
婚約者のこと、立場の差のこと。もう障害に感じるものはないはず。
だけど彼の本音を知ることが怖い私は、彼に向き合うことができない。
傷つくくらいなら離れてしまいたいと本当に思うなら、潔く身を引くべきとわかっているのに。
中途半端なまま、今の位置に甘えている。私は、ダメだ。