犯罪シンドローム
20
これは本当に偶然の巡り合わせだった。だけど、手元に置いたのはただの気まぐれではなかった。
手袋を付けた指先から零れる鮮血が嫌にハッキリと見えた。血の水溜りに落ちてポチャンと響くようだ。
ここにいる生きている人間は自分だけ。呼吸音も自分のもの。静かになった室内でエアコンの音だけが生きていた。散らばる死体は、金儲けのために若い女、子供、老人を騙して金を巻き上げ自分の家を新たにでかくしたばかりの能天気なクズのものだ。
気が抜けて倒れそうになるのを我慢する。
殺しが好き?
まさか。
俺が嫌いなのは弱いものをバカにするクズだ。嘘も嫌いだ。俺のことをさんざんバカにして捨てたクズ親も。クズは一掃しないといなくならない。
そうだよ、みんな居なくなれ。殺してやる。
平和に生きたい弱い子たちが報われない。だったら俺の手で守ったらいいんでしょ。
手から鉄パイプがガランと音を立てて落ちた。
ハッとする。マズイ…トんでた。
洗面所で血を洗い流す。
使った手袋は繰り返し使うようにしてる。捨てて警察に渡るのは良くない。
外に置いた車に乗り込み、住宅街を走る。
…そういえば、この辺だったか。
僕には初めて心を許せると思えた人が過去に1人だけいた。まだ幼いころだ。家出した時に出会った女の子がいまでも忘れられない。
その公園の近くだった。
公園を通り過ぎたところで、スーツ姿の女の人が飛び出てきた。
「ちょっ…!」
慌ててブレーキを踏んだが、驚いた顔を向けている人を見て記憶が呼び出される。
「あぁ…これって運命かな…」
踏んだブレーキを緩めアクセルを踏みわざとぶつかる。すぐに車から降りて舞い上がった女の人をキャッチする。気を失う顔も間違いなくあの子だ。
後部座席に寝かせ、車を出す。
急いでいまの住まいに運ぶ。
部屋のベッドに寝かせる。
「夜に女の子1人で歩いちゃいけないよ、間宮さん」
ふわふわした気持ちになる。彼女はやっぱり僕には必要なんだ。僕のそばに居てよ、間宮さん。髪に指を絡め撫でる。
あぁ、こんなの僕には要らないものなのに。貴女に触れてまた僕は変われるかな。
唇に目がいく。さらに下に目を移す。
「はは…おかしいな…間宮さんのこと手元に置いておきたいから手に入れたのに、僕は間宮さんを動かない人形にしたいとも思ってる…こんな自分は、いらない」
間宮さんにとって、優しい桐生卓人になるよ。だから、こんな僕を知ろうとしないで。
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桐生卓人はいわゆるヤンデレ気質です。
元から里未を好きだが自覚はないタイプ