犯罪シンドローム


 そんな卓人の後ろ姿を私は不思議な気持ちで見つめた。
 初めて卓人に会った時から怖くはなかったが、今となっては犯罪者であることを忘れそうになる。
 そんな長く時間を共にしたわけではないが卓人といる時間は濃くて、かなりの時間を一緒にいたように感じる。
「間宮さん?早く。大学いくんでしょ?」
「あ、そうね。行くわ」
 あわてて卓人について行く。
 車に乗り込む。
「そうだ、卓人くん。前に私のこと、里美って呼んでくれたよね」
「え?…あー、焦ってたからあまり意識になかったけど。名前で呼んでほしいの?」
「なっ…!そ、そういうことじゃないけど…名前の方が良いって言うか…」
 どうして、彼のひと言は恥ずかしく聞こえるんだろう…。
「分かった。里美さん。…顔赤いけど大丈夫?」
「何でもない!!大丈夫!!」
 会話を終わらせ窓に目を向ける。
 見知った景色がもう簡単には歩けないのだ。
 少し残念な気もする。
 やがて車は大学の裏側に到着した。
「終わったら連絡してね」
「帰りもここでいいのね?」
「人目につかないからね」
 手を振って、車から降りた。


 一昨日行ったばかりなのに大学が懐かしく感じる。
「美咲!」
 私は高校生に戻ったみたいに親友の軽井美咲に抱きついていた。
「え?ちょっと、はぁ?里未、何なの。いきなりハグとか」
「すごい塩対応…まぁ、色々あるのよ。親友がたまに恋しくなることもあるわよ」
「ふーん…キモイね」
「え…(笑)ヒドい…さすが美咲」
「知ってるでしょ。…あ、話変わるけど、昨日のあれ、知ってる?」
「昨日?何かあった?」
 昨日って…ってまさか、卓人くんのことじゃ…。でも昨日は川には投げてはいたけど殺してはいなかった。
 そして、私は気づくべきなのだ。川に人を投げる行為が有り得ないことなのだと言うことに。
「昨日、放火未遂が確認されたらしいの。容疑者として捕まった男が何故か怖いものを見たように震えて、事情聴取が進まないって。面白いよね」
「うん、そうね…」
 うわ、身近すぎる話…。卓人くん噂になっちゃってるよ?本人の名前も話題も上がらないし…バレてないだけ良かったけど、シャレにならない。
 もしその男が卓人のことをしゃべりでもしたら…。周りから聞いて事の重大さを知る。
 怖いのかな、私…。

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